いの事を知らなすぎる。
通っている学校、趣味嗜好、友人、そして恋人について…。
だが明音は過去を語らない。
これまでの言動、行動から「何か」あった事は明白だが、明音はそれをハルに明かさないまま、カラダの関係が続いていた。
ハルは自分の明音に対する想いを自覚し始めていた。
明音の事が知りたいが、明音にとっては踏み入って欲しくない部分らしく、強引にはぐらかされる。
誰にでも過去があり、その中には思い出したくもない記憶もあるだろう。
深く詮索せず、徐々にお互いを知っていけばいいじゃないか…
そう思える程、ハルはまだ大人ではなかった。
深入りすべきでは無い事は理解しつつも、明音への恋心と好奇心は増していく。
それでも少々無粋な訊き方をしてしまった…と反省していると、明音がスーパーに買い物に行くと声をかける。
昨日、豚の生姜焼きを作って欲しいと明音にリクエストした事を思い出した。
恐らく、他の物も併せて買うだろう。
食材の事など分からないが、荷物持ちとしてなら役にたてる。
ハルは自分も行くと、急いでシャワーの栓を閉めた。
色々と見ていたら、案の定大量に買い込んでしまった。
大袋は3つ分。加えて明音が大きい給水シートを買っていたが、何に使うのだろうか…。
帰路、信号で立ち止まる。
と、横から明音の香りが流れてくる。
シャンプー…柔軟剤だろうか。甘い香りに、真夏の強い日差しに照らされてかいた汗の匂いが混ざっていた。
明音から香るそれは、ハルの鼻孔と性欲を刺激した。
自分は女性の匂いで欲情するような変態だったのか。
少年であるハルにとっては軽い絶望にも似た感覚だったが、
それよりも、明音を今すぐ押し倒したいという欲求に抗う事に必死だった。
そして、それが「無駄な抵抗」であったと、少年は間も無く知る。