るべき幸福を見つけてほしかったのに。
できる限りの償いも、する覚悟だったのに。
でも彼は言う。
「今の私が好き」と。
何故か、涙が溢れてしまった。
涙を盾にする女にだけはなるまいと決めていたのに。
彼に抱きしめられて、いよいよ抑えが効かなくなった。
まるでコドモの様に泣いてしまった。
この感情が何なのか、理解出来ない。
ただ、あの出来事以降、今の今まで自分の中にあった何かが、
涙と共に溶けて行くような感覚があった。
彼に言われるままに、初めてゲームで遊んでみた。
私の隣ではしゃぐ姿を見ていると、普段落ち着いてはいても年相応の
少年なんだなと、改めて実感する。
途中、彼のスマホに着信。
お義母さんからだ。
見ないフリをしていた罪悪感が一気に広がり視界を覆う。
彼が通話している最中、まるで犯罪者の様に息を潜めた。
いや実際犯罪者なのだが。
それでも会話は聴こえて来る。
どうやらお父さんと話しているらしい。
彼が室外に出る。
何か私に聞かれるとマズい事でも話すつもりなのか。
もしかして、私達に起きた事を…?
いや、まさか…。
いけないと理解しつつも、聞き耳を立ててしまった。
彼がお父さんに伝えたのは、感謝の気持ちだった。
彼の実の父親は離婚後家を出て行ったらしい。
その後、彼の母…お義母さんがずっと辛そうにしているのを、
傍で見守って来た。
母親にある程度見切りをつけていた私と違い、まだ幼く、甘えたい年頃の
彼にとってそれは…どれほどのトラウマだろうか。
それでも彼は、「母を幸せにしてくれてありがとう」と
感謝の気持ちを伝えている。
逃げてばかりの私と違い、自分や家族と向き合おうとしている。
前に進もうとしている。
恥ずかしい。
一瞬でも疑念を抱いた事。
なし崩し的に彼と、家族との事から
目を背けようとしていた事。
これほど自分に対する怒りと失望に満たされた事はかつて無い。
これ以上、自分を嫌いになりたくない。
彼のスマホを奪う様にして、お義母さんに感謝を伝えた。
そして…もういいだろう。
認めてしまおう。
健全な形ではなく、この先も私は彼にした事を後悔して
生きて行くだろう。
それでも、今この時彼を想う気持ちにだけは、一片の偽りも無い。
「私も…ハルさんが好きです」
改めて裸で向き合い、信じられない程心臓が跳ねる。
これが、好きな人との…。
彼の求める事には全て応えたい。
彼を幸せにしたい。その気持ちは膨れ上がる一方で、
かつて無い多幸感に満たされた。
…そうは言っても、自慰行為を見せて欲しいという彼の言葉に、
「はいわかりました」と直ぐに応じれる程、私の心臓は強く無い。
お父さんのワインをコップに注ぐ。
この飲み物のせいで失敗ばかりしてきたが、素面では彼の要求に
応える事は難しい。
だが、問題がある。
私は、お酒に弱い。
お酒を飲むと、起きた事を断片的にしか思い出せなくなる。
彼との時間を、一瞬たりとも忘れたくはない。
でも…あぁそうか。
私はある方法を思いつく。
不安だが、多分バレないだろう。
終わった後すぐに寝て、その後知らぬ存ぜぬで通してしまえばいい。
迷っている時間は無い。
もうすぐ、「5日目」が終わってしまうのだから…。