世界の平和を取り戻さんとしているかと言えば、違っていた。
ある者は魔王討伐を掲げる事で集まる金、名声、女の為。
ある者はモンスター退治を生業とする為。
またある者はただ周囲からの注目を浴びる為。
魔王の出現から15年。
世界はモンスターが跋扈(ばっこ)し、エセ勇者が蔓延る混沌にみたされていた。
そんな中、1人の男…というには余りにも若い剣士が魔王討伐の為故郷を後にする。
彼の名前はカイ。
まだ旅立つには早過ぎると思われていたが、既にカイの剣の腕前は大人を優に凌ぐ程だった。
だがさすがに1人では心許ない。
まずカイは仲間集めの為に地方のギルドを訪れた。
そこにはカイと同じく旅の仲間を探す者達で賑わっている。
仲間といっても、ギルドを通せば登録料やら仲介料やらで、細々と金がかかる。
そして、カイの懐はそう余裕のある状態では無かった。
旅立ちに際し村の住民がくれた餞別と合わせても、雇えるのは1人だろう。
慎重にギルドに登録されている冒険者を吟味する。
まずどんな能力を求めるか。
得物を使い前戦に立つのは自分の役目として、欲しいのは後方支援…回復魔法を使える者が居れば、戦闘が安定するとカイは踏んだ。
もちろん他にも弓使い、黒魔術士、格闘家等も欲しいが、あくまで雇えるのは1人だけ。
他の者は道中機会があれば交渉、勧誘すればいい。
それまでにリタイアしないよう、生き残る確率を上げておく事を優先したのだ。
だが目ぼしい回復士は既に雇われ旅立った後のようだ。
回復士は適性を持つ者が少ない為希少であり、やはり皆が求める能力だった。
カイの旅が仲間集めの段階で頓挫しかけた時、ふと1人の回復士が目にとまる。
「回復魔法、使えず」の一文が添えられた回復士の女性。
カイとは10程離れているだろうか。
普通ならまず選ばない人材。
回復士でありながら、回復する術を持っていない。
それはもはや回復士とは呼べないだろう。
だがある一文がカイの目に止まる。
「それ」を踏まえてもまだ不安の方が勝るが、手持ちも少なく彼女以外の回復士が出払っているのが現状。
カイは彼女に実際に会ってみる事にした。
こうして後に世界を救う事になる2人は出逢い、旅立つのだった。
道中の魔物は強力になっていき、カイの体には傷が増えていく。
懸命に治療をするサニアだったが、カイの助けになれない無力感に苛まれる。
2人の限界は近づいていた…。
ある日、強敵に遭ったカイは怪我を負い敗北。
サニアの所持していた魔道具の力で何とか脱出し、運良く見つけた山小屋に逃げ込んだ。
目覚めたカイに、サニアは旅を辞めようと提案する。
そこで、2人は互いの気持ちを知るに至り、口づけを交わす。
すると、カイの身体に変化が起きる。
何と魔物から受けた傷が綺麗に治癒していくのだ。
ー自身の体液により対象の傷を癒すー
それがサニアの能力だったと判明する。
回復に安堵する2人だったが、取り込まれた強力過ぎる生命エネルギーにより、
カイの身体は更なる異変が起き始めていた。